防火管理者とは?建物・資格・役割について

2025年02月06日

防火管理制度の概要

防火管理制度は、消防法に基づき建物全体での火災予防や避難計画を適切に管理するための仕組みです。火災が起きたときに備えて、設備点検や防火対策を実施し、そこに集まる人たちの安全を守ることが目的といえます。とりわけテナントとして店舗を構える場合は、同じ建物内の他業種との兼ね合いも発生しますので、統括的な管理が欠かせません。以下では、防火管理制度や関連する制度について整理し、乙種や甲種といった資格区分についても触れていきます。

防火管理制度とは

防火管理制度とは、ひらたく言えば「火災を予防し、有事には速やかに避難するための体制づくり」を義務化した仕組みです。対象となる防火対象物の規模や用途に応じて、防火管理者を選任して消防署に届け出る必要があります。具体的には、施設の避難経路を確保したり、消防設備が適切に点検されているかを監督したり、防火に関する計画を作成・実施することが主な任務です。テナントとして飲食店を開く場合も、一定の規模を超えると防火管理者が不可欠になるケースが多いため、開業前に確認しておきましょう。

統括防火管理制度とは

統括防火管理制度は、一つの建物に複数の用途や施設が入る場合に、各テナントごとの防火管理者を束ねる役割を持つ制度です。たとえば貸しビルで飲食店や事務所、ホテルなどが混在していると、建物全体として火災予防策を統一しないと混乱が生じるおそれがあります。そのため、全体を見渡して防火対象物の安全管理を行う「統括防火管理者」を選任し、個別の防火管理者と連携を取ることで、消防設備の点検や避難経路の確認を円滑に行うのです。

防火対象物点検報告制度とは(特例認定制度を含む)

防火対象物点検報告制度は、一定の規模や用途の建物について、専門家による点検を受けたうえで、その結果を消防署へ報告する義務がある制度です。飲食店を中心としたテナントが集まる大きな商業施設や、不特定多数の人が利用する病院やホテルなどは、消防法の観点で厳格な防火対策が求められます。また、優れた防火・防災管理体制が整っている場合には特例認定制度を利用できる可能性があり、点検や報告の回数が軽減される場合もあります。とはいえ、防火管理者は責任を持って監督する必要があり、日々の防火対策が免除されるわけではないのでご注意ください。

防火管理者が必要となる建物の判断基準

ここからは、防火管理者が必要となるかどうかを見極める指標を押さえていきます。建物の用途や収容人員、延べ面積といった三つのポイントが主な判断基準となります。飲食店用のテナント契約を検討している方も、物件の構造や広さ、想定される来客数を考慮しながら、消防法上の義務をクリアすることが大切です。ここでは、消防署に届け出が必要な規模や具体的な算定方法などを見ていきましょう。

建物の用途(テナント・マンション・貸しビル・無人店舗 など)

建物の用途によって、防火管理者の選任義務が変わります。たとえばテナントとしてカフェを開業する場合、人が常時滞在して飲食するスペースであるため、事務所や倉庫などとは異なる基準が適用されることがあります。また、マンションの一室を改装して小規模に運営するなら、防火管理者が不要な規模に収まるケースもありますが、改装範囲や消防設備の設置状況によっては要件を満たさない場合もあるので注意しましょう。

収容人員の算定方法

収容人員の算定方法は「床面積を人数で割り出す」やり方が一般的です。たとえば飲食店だと従業員の平常時最大勤務者数、客用固定椅子数、その他の部分の床面積を3平方メートルで除した数を合算し算定。消防法では収容人員が30人を超える場合、または50人規模を超える場合などで、防火管理者の選任義務が生じることがあります。具体的な数値は建物の種類や用途によって異なるため、内装工事をする前の段階で、あらかじめ消防署や専門家に確認しておくと安心です。

建物の延べ面積

建物の延べ面積が大きくなると、不特定多数が利用できる可能性が高まり、火災発生時の避難が困難になるリスクが上がります。そのため、一定以上の面積を持つテナントや施設は、防火管理者の選任が義務づけられる場合がほとんどです。飲食店の場合は客席やキッチン、備品の保管場所など、トータルで考えると意外と面積が大きくなることも少なくありません。契約前に建物全体の情報をしっかり把握し、消防法の対象となるかどうかを確認することが重要です。

防火管理者の資格と選任条件

次に、防火管理者の資格として乙種や甲種の区別、そして選任条件について掘り下げます。防火管理者の資格には種類があり、建物の用途や規模に合わせてどの資格を取得すれば良いかが変わります。また、誰でも選任できるわけではなく、講習の修了や一定の実務経験が必要になる場合もあるため、事前に要件を確認しておきましょう。

必要な資格の種類

防火管理者には、大きく分けて乙種防火管理者と甲種防火管理者があります。乙種は小規模な施設向けで、甲種はより大規模な建物に対応する資格です。飲食店のテナントであっても、収容人員が多かったり延べ面積が広かったりすると、甲種防火管理者の選任が必要になるケースがあります。逆に、小さい店舗や人員数が限られる場合は乙種で問題ない場合もありますが、消防法や自治体の条例で細かく決められているため、選定には注意が必要です。

統括防火管理者の選任基準

同じ建物に複数の業種が入り、全体を総合的に管理する必要がある場合は、統括防火管理者を選ぶ必要があります。その際には、甲種防火管理者の資格を持っていることが一般的な要件とされます。たとえば事務所と飲食店、病院やホテルが混在するような大規模な施設では、統括防火管理者の指導のもと、防火計画を全体で作成して実施しなければなりません。テナントとして出店する際は、自分自身がその役を担うのか、ビルオーナー側がすでに統括防火管理者を選任しているのかを確認しておくとスムーズです。

資格取得方法(講習の流れ など)

防火管理者の資格を取得するには、消防署や自治体などが実施する講習を受講して修了する必要があります。講習日程は各地域で異なり、受講料も数千円から数万円程度までさまざまです。甲種防火管理者の場合は座学や演習の時間が長めに設定されることが多く、乙種よりも学ぶ範囲が広い点が特徴といえます。飲食店を開業する方が自ら資格を取りたい場合は、早めに講習の日程を押さえ、内装工事や保健所手続きなどのスケジュールと合わせて計画的に進めてみてください。

防火管理者の役割・業務内容

防火管理者は、火災を予防し、人命を守るための組織づくりや設備点検を担う重要なポジションです。具体的には、火災の危険を減らすための対策を立てたり、万が一のときに避難をスムーズに行うための計画を作成することが求められます。テナントとして店を構えるならば、店舗独自の設備だけでなく建物全体との連携も不可欠です。ここでは防火管理者が行う主要な業務を三つに分けて解説します。

火災予防と設備点検

防火管理者は、ガスや電気など火災リスクがある設備の点検スケジュールを決めたり、消火器や火災報知器が正常に作動するかを確認したりします。飲食店の場合は調理設備を多用するため、グリーストラップや換気扇周辺の清掃も重要です。定期的に設備の状態をチェックし、必要があれば修理や更新を行うことで、火災予防に大きく貢献します。

避難計画と緊急時の対応

万が一火災が発生した場合、まずはお客様やスタッフを安全に避難させる必要があります。そのために必要な経路や誘導灯、避難ハッチといった設備を整え、誰が誘導役を担うかといった細かな役割分担を事前に決めておくのです。防火管理者は避難計画をまとめるだけでなく、定期的な避難訓練を実施し、その結果をフィードバックしてプランを改善する責任も負います。

消防署との連携

防火管理者は、消防署との連絡調整を円滑に行う窓口でもあります。たとえば、建物の用途変更や内装工事で新たに消防設備が必要になる場合は、事前に消防署へ相談することでトラブルを回避できます。また、防火対象物点検報告制度に基づき報告を行う際も、必要書類をきちんと作成し、期日内に提出することが大切です。

多店舗経営における注意点とトラブル事例

複数のテナントを同時に運営する場合や、大型店舗をいくつも展開する場合には、より一層防火管理が複雑になります。新たに開業を考えている方は、今後の拡大を見据えて早い段階から防火の仕組みを整えておくと安心です。以下では、多店舗経営において起こりやすいトラブル事例や注意点を紹介します。

防火管理者の再講習・受講漏れ

防火管理者として資格を得た後も、一定期間ごとに再講習を受ける義務がある場合があります。忙しさにかまけて受講を後回しにすると、資格が無効になるリスクが生じるのです。特に拠点が増えるほど管理がおろそかになりやすいため、講習のスケジュールは早めに把握しておきましょう。

管理情報の不備

店ごとに防火管理計画を整えていても、書類がバラバラで更新されていなかったり、点検結果が共有されていなかったりするケースがあります。統括防火管理者がいる建物でも、各テナントが計画や報告書を適切に提出しないと、建物全体での安全性が確保できません。常に最新情報を管理し、一元化する仕組みを作ることが望ましいです。

新任防火管理者の選任・受講漏れ

スタッフの入れ替わりが多い業態では、「前任の防火管理者が辞めたのに、新任が決まっていない」状態が起こりやすいです。防火管理者の不在期間があると法令違反となる可能性が高いので、新任が決まったら速やかに必要な講習を受け、消防署へ届け出を行いましょう。

複数の建物を兼任する場合の留意点

一人の防火管理者が、複数の建物を管理する場合もあります。その際には、それぞれの建物の用途や規模に合った防火計画を作成し、点検スケジュールや避難訓練をきちんと実施しなければなりません。忙しくて十分に時間が割けないと、火災予防や避難に関するチェックが甘くなる危険性があります。必要に応じて外部委託を検討し、過度な負担がかからないよう配慮しましょう。

防火管理者の外部委託という選択肢

「遠距離で共同住宅の防火管理業務を行えない」「収容人員が少ないテナントをやっているが高齢や病気などによって防火管理業を行えない」などの一定の基準を満たす場合、専門業者に業務を委託する方法もありますので詳しくは消防署へお問い合わせ願います。

開業後のコストを抑えたい場合でも、火災発生のリスクを低減するための投資は重要です。以下では、外部委託をする際の条件やメリット・デメリットをまとめます。

外部委託を認める条件

防火管理者の業務を外部委託するには、建物の管理権原者がその業者に一定の権限を与える必要があります。実質的に防火対策をコントロールできる立場でないと、消防法の趣旨を果たせないからです。加えて、依頼先の業者が甲種防火管理者など必要な資格を有しているか、継続的に点検や報告が可能かを確認しておくことが大切です。

外部委託のメリット・デメリット

外部委託のメリットは、専門知識と豊富な実績を持つプロに任せられる点にあります。講習を受ける時間や管理の手間を省けるため、本業に集中したい個人事業主にとっては魅力的です。一方、デメリットとしては委託費用が発生することや、店舗やビルの内部事情を細やかに把握しづらい面があります。特にテナントとして入っている立場だと、外部の人がどこまで口出しできるかがあいまいになることもあるため、契約内容を十分に確認しておきましょう。

よくある質問

Q1: 飲食店を開業する場合、何平米以上や何席以上で防火管理者が必要になるのでしょうか?
A: 一般的には消防法で定める収容人員計算により、30人以上や50人以上など具体的基準が決められています。算定方法は難しいため、あらかじめ消防署に確認するのがおすすめです。

 

Q2: 内装工事を行う際、追加で必要となる消防設備には何がありますか?
A: 用途変更(例えば、事務所から福祉施設へ変更)に伴って、火災報知器やスプリンクラーの設置、避難口誘導灯などが必要となる可能性があります。事前に施工業者や消防署としっかり打ち合わせをしましょう。

 

Q3: 消防署や保健所への提出書類とスケジュールはどう把握すればいいですか?
A: 物件契約から内装工事、防火管理者の選任など、全体の流れを一覧化することが第一歩です。スケジュール管理が苦手な方は、不動産業者や行政書士などの専門家に相談しながら、融資や助成金の申請時期も含めて逆算してみてください。

まとめ

テナントとしてカフェやレストランを開く際にも、防火管理者の選任や防火対策は避けて通れない大切なポイントです。消防法のルールをしっかり把握し、必要な資格や設備を整えておくことで、安心安全な店舗運営を続けられます。特に複数店舗を展開する予定がある場合は、早めに統括防火管理者や外部委託の活用を検討してみてください。火災は起きてからでは取り返しがつかないものです。ぜひ日頃からの点検や計画づくりを意識して、リスクを最小限に抑えていきましょう。